森を抜けた先に村を見つけたノイマン(※)。
その村はところどころ破壊され、民家の壁には生々しい傷跡がついていた。
「…旅の人かい?大変な時にきちまったな」
村人とおぼしき男が話しかけてきた。見れば、手にはウィスキーの瓶が握られている。
「悪いことは言わねえよ。少し休んだら道を引き返しな。……村の北には、絶対に行かねえ方がいい」
一方的に言い放つと、男は去って行った。
「村の北……魔物の巣でもあるのだろうか。しかし北へ行かねば伝令書を届けられん…」
辺りを見回すと、村人がどこか暗い表情をしている。どうにもただ事ではなさそうだ。
村人に聞いて回ったところ、この村の現状は外部の人間には話せないらしい。
仕方なしに村の北口に来てみると、老婆が行く手を塞いできた。
「公国の方ですか……しかし今はここを通すわけにはいかないのです」
老婆はうつむいたまま、そう告げた。
その後、何かを思い出したかのようにノイマンの腕を両手で握り、続けたのだった。
「……ですが……もし、もしよろしければ長老の話を聞いて言って下され!!お願いです…」
これはただ事ではない……老婆に場所を聞き、ノイマンは長老の家へと急いだ。
長老は特に警戒するでもなく、ノイマンを家へ招き入れてくれた。先ほどの老婆もだが、一目で公国の者だと分かったらしい。
「よく来なすった。しかし……今北の森を通るのは危険ですぞ…」
ノイマンは事情を聞かせてくれるよう、頼んだ。
すると長老は、うつむきながら、しかしどこか安心したような顔で語り始めた。
「…いつの頃だったか……村に魔物が現れましての。突然現れては、いたぶるように村の者たちを傷つけていきましたわい。村の建物にも悪さをするのですが、多少壊して傷をつける程度でしてな。意図的に手を抜いて襲撃しているのが分ったのですが……」
「魔物がわざと手加減していると?一体なんのために…」
ノイマンの疑問は当然のことだった。魔物というものは人間を襲い食らうものであり、遊びのように手加減をして楽しむようなことはしない。
そもそも遊びの概念があるかどうかさえ怪しい、単純な思考をしている生物なのだ。
疑問に答えるように、長老は続けた。
「…その魔物はかなり特殊でしてな。いきなり言葉を発するや、恐ろしいことを言い出してきましたわい」
ノイマンが目を見開く。魔物が人に言葉を発するなど、聞いたことがない。
とすれば魔族が化けているに違いなく、なぜこの小さな村に手を出しているというのか……思案は巡る。
長老はノイマンに目をやると、少し苦い笑いを浮かべた後、顔を強張らせ再び語り始めた。
「この魔物が言うには……再び村に手を出してほしくないならば、若い娘を生贄に捧げよ、と。一度だけでいい、とも言っておりましたな……そしてその期限が、今日じゃった…」
「…それで、長老殿の判断は…」
ノイマンが尋ねる。しかしそれは、聞かずとも長老の表情を見れば分かることだった。
そして予想した通りの回答を、長老が語る。
「…皆反対しておりました、そしてそれはわしも同じ。しかし、この村に戦えるものなどおりません。そんな時、わしの孫娘が名乗り出ましてな……本当につい先ほど、北の森に一人で向かいましたわい……」
言い終えると、長老は床に膝をついた。悲痛な面持ちで、涙をこらえている様子だ。
「…なるほど。事情は分かった」
そう言うと、ノイマンは腰袋に手を突っ込んだ。
「…愚かなわしを責めたりしないのですな…」
「…誰のせいでもない状況だ。人語が話せる程の魔物と戦って勝ち目はないからな。長老殿の判断も、孫娘が自身で決めたなら……それは正しい判断だと思ってやりたい」
そう言い、腰袋から王の伝令書の入った封書を取り出す。
「ただ……魔物が約束を守るとも思えない上、その孫娘を犠牲にも出来ない。そして私の事情もある」
封書に刻印された、公国の印章を見せる。
「その伝令書は……!すると貴方は公国の騎士様なのですか!?」
「ああ。通してくれるな?」
目を見開き、ノイマンの顔を見つめる長老。それに対し、口元だけで僅かに笑みを浮かべるノイマン。
「おお、救いがここに……お願いします、どうかわしの孫娘を……リーファを助けてやってくだされ!!」
その後長老に通行証を書いてもらったノイマンは村を出、北の森をひた走る。
話によれば、魔物は森の道中にある遺跡に住んでいると言ったらしい。
伝令書は、そこを通過した遥か先にいる人物に渡さねばならない。
「この書を一刻も早く届けたい所ではある……が、弱き者を見捨てれば私が公爵に八つ裂きにされてしまうな」
独り言をつぶやき、にいっと笑いながら、ノイマンは遺跡の入り口に立った。
鬼崎じゃ!( ´∀`)ノ
前置きの物語を書いておったら、えらく長くなったぞ(・ω・)←
そんな訳で、今回と次回はこのまま物語オンリーで行くぞよ( ˘ω˘ )タマニハコウイウノモ
ちゅーわけでさらばじゃ!( ´∀`)ノシ
※……この物語でのノイマンとは、イリアス公国に所属する目元が八代亜紀に似ている髭の騎士。剣の腕はそこそこだが、馬術を得意とする。一直線な性格のため戦場では単騎で駆けていく事も多いが、その卓越した馬術と集中力によって多大な戦果を上げる。
そして彼には、公爵にしか伝えていない秘密がある。
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