目次
継承。
「タケミカヅチ……俺が…?」
俺の名は麻生恭哉。特に特徴もない、平凡な高校生だった。
だったんだ、昨日までは。
信じてもらえるかどうかは分からないが……俺は今、日本神話に出てくる神様「タケミカヅチ」の力を身に纏っている。
タケミカヅチが分からない?そりゃそうだろう、俺も今朝詳しく知ったばっかりだから。
…昨日の夜の話なんだが、ベッドに横になってると急に剣が降って湧いたんだ。
まるでワープでもしてきたかのように現れては、そのまま床に突き刺さった。
状況が飲み込めなさ過ぎて、慌てた俺は刺さってる床の方が気になったものだ。
咄嗟に引き抜こうと思い、柄を握ってみたら…
それは現れた。
『不躾ですまぬ、だが時間がない。事は急を要するのだ』
唐突に頭の中に声が響き、まるで特撮ヒーローみたいな姿をした何者かが現れた。
『我が名は建御雷。お主に我の力を継承するため、剣を通して語りかけておる』
タケミカヅチ…?俺のやってるスマホゲームにそんなキャラがいたような……
それに継承って一体なんの話をしているんだ?
『タケミナカタが叛意を示しおった。恐らく人の子に力を継承させ、この葦原中国(※)を乱そうとしておるのだろう』
※神代の頃の日本の呼称。
タケミナカタ……アシハラノ……?
混乱し始めた俺に呆れたのか、タケミカヅチは少し俯き…
『…継承を行えば全ては理解できる』
そう告げると、光の塊に変化した。
『案ずるな、儀はすぐに終わる』
まばゆい光に包まれた俺は、そこで意識を失った。
記憶。
目を覚ました俺は、昨日起きたことがすべて現実だったことを知った。
剣が刺さっていたから……というのももちろんある。
けどそれだけじゃない。直感的に理解してしまったんだ。
「一時的にだが、俺はタケミカヅチになっているんだな」
もちろん、姿かたちは変わらない。人格も以前の俺と変わらないはず。
けど、明らかに違う。
全く別の、タケミカヅチとしての記憶も存在するからだ。
タケミナカタの叛意を察知して、俺の部屋に剣を飛ばした経緯も知っている。
継承についてもそうだ。
人間の体では、全ての力を引き継げない上に期限付きの、限定的なものらしい。
七日間……その間にタケミナカタの継承者と決着をつける必要がある。
それを過ぎると、再び別の人間に継承することになるんだと。
そして今回のことは、タケミカヅチにとっては小競り合いのようなもの。
そのため、天照大神(※)の耳に入る前に決着を付けなければいけない……ってところだな。
※日本神話の最高神、太陽を司る女神。
タケミカヅチの記憶を辿りながら、俺は学校への支度を済ませた。
普通だったら、この突拍子もない展開に気が動転して学校どころじゃないとは思う。
なんだが…
なぜだかとても落ち着いていた。これも継承の影響なんだろうか?
ちなみに肉体的には、特に変化がなかった。
これはタケミナカタと接触するまでは封印されているという。
確かに、日常生活で超パワーは必要ないからな。
学校へ向かうバスの中、気になってタケミナカタに関する記憶を探ろうとした。
だけど、不思議なことに一切思い出せない。
何かしらのプロテクトでもかかっているみたいに、全くイメージが出来なかった。
「知る必要のない過去のことは、人には教えられない……か」
まあ神様にも色々と事情があるんだろう。
学舎。
「おーす、恭哉」
教室の前で声を掛けられた。
声の主は小泉。俺のツレで、幼稚園からの腐れ縁だ。
付き合いが長いせいか、学校では大体こいつと一緒にいる気がする。
「はよ。あれ、今日は早いじゃん」
普段なら、俺の方が先に着いているはずなんだが。
「…ちょっとやりたいことがあったんだよ。そのために、今日は2時間も早起きしたしな!!」
こいつの家は学校から近く、毎日チャリで通っている。
いつもはギリギリまで寝ているこいつが、早く来てすることといえば……
「体育倉庫でゲームしてた!!」
…予想通りだったので、特に驚きはしなかった。
小泉の親はゲームが嫌いらしく、家でやってると怒られるとかなんとか…
よその家庭事情に思いを馳せている俺に、小泉は声のトーンを上げ話始めた。
「でさ!昨日アメノヒダマファイターズに新キャラが追加されたんよ!」
アメノヒダマファイターズというのは、最近流行っているスマホゲームだ。
日本神話を題材にしたもので、よく調べてみるとタケミカヅチも出ている。
俺もリリース開始日にインストールしたはいいけど、あんまりプレイ出来てない。
「そのキャラがなんと!あのアラハバキなんだわ!」
そう言って、画面に映る土偶の格好をしたキャラを見せてきた。
名前は知らなかったけど、なんとなく追加キャラになる気はしてたっけ……んん…
…アラハバキ?
今改めて聴くと、妙に懐かしい気がする。
俺はソレを知っている……いや、思い出したという感覚に近い。
昔、そんな奴がいたっけ……昔……
そう、遠い昔……これはタケミカヅチの頃の…
「…恭哉?どうした、難しい顔して」
小泉は俺の肩を触り、揺らし始めた。
その瞬間だった。
俺の頭の中に轟音が鳴り響き、タケミカヅチの声が聞こえる。
次の瞬間、俺は口走っていた。
『お前はタケミナカタだな?』
~下巻へ続く~
~あとがき~
いやあ、今回は上から下まで物語じゃったな!
やはりにぎブロ。は、こんな感じで好き勝手書いたものをアップする時が一番楽しいわい( ´∀`)フォッフォッ
反面分かりにくい所や矛盾があるやもしれんから、そういうのがあったらお便りくだされ( ˘ω˘ )✨
ちなみにこの物語の発端は……いや、それはまた次回のあとがきでの!
ここまで読んでくれて、本当にありがとうの✨
鬼崎がお送りした!さらばじゃ!( ´∀`)ノシ
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